確率的順序
ある確率分布$F$が他の確率分布$G$に対して優位である,または,より大きいことを表す多くの基準がある. ここではオークション理論で重要な役割を果たす確率的順序(Stochastic orders)について議論する.
簡単のために,全ての確率分布は同じ台$[0,\omega]$を持つと仮定する. 確率はその台が非負の実数であることを認める.
一次の確率的優位性
確率分布関数$F$と$G$がある時,全ての$z\in[0,\omega]$に対して, \begin{equation} F(z)\le G(z) \end{equation} である時,$F$は$G$を一次の確率的優位性があるという.
確率変数$X$と$Y$がそれぞれ$F$と$G$に従い,$F$が$G$を一次の確率的優位性があるとき,$X$は$Y$に対して確率的優位性があるという.
狭義短調増加で微分可能な関数$\gamma:[0,\omega]\rightarrow\mathbb{R}$があるとする.
$X$は$Y$に対して確率的優位性があり,確率分布関数$F$と$G$がある時,
$\gamma'>0$であり,$F\le G$であるから,($E[X]\ge E[Y]$)
\begin{equation}
E[\gamma(X)]-E[\gamma(Y)]=\int_0^\omega\gamma(z)\left[f(z)-g(z)\right]dz \\
=-\int_0^\omega\gamma'(z)\left[F(z)-G(z)\right]dz\ge 0
\end{equation}
Hazard Rateの優位性
全ての$z\in[0,\omega]$に対して, \begin{equation} \lambda_F(z)=\frac{f(z)}{1-F(z)}\le\frac{g(z)}{1-G(z)}=\lambda_G(z) \end{equation} が成り立つとき,hazard rateについて$F$は$G$に対して優位である,またはhazard rate優位性があるという.
$F$が$G$に対してhazard rateについて優位である時, \begin{equation} F(x)=1-\exp\left(-\int_0^x\lambda_F(t)dt\right)\le 1-\exp\left(-\int_0^x\lambda_G(t)dt\right)=G(x) \end{equation} が成り立つ.hazard rateについて優位である時,一時の確率的優位性があることを示している.
Reverse Hazard Rateの優位性
全ての$z\in[0,\omega]$に対して, \begin{equation} \sigma_F(z)=\frac{f(z)}{F(z)}\ge\frac{g(z)}{G(z)}=\sigma_G(z) \end{equation} が成り立つとき,revernse hazard rateについて$F$は$G$に対して優位である,またはreverse hazard rate優位性があるという.
$F$が$G$に対してreverse hazard rateについて優位である時, \begin{equation} F(x)=\exp\left(-\int_x^\omega\sigma_F(t)dt\right)\le \exp\left(-\int_x^\omega\sigma_G(t)dt\right)=G(x) \end{equation} が成り立つ.reverse hazard rateについて優位である時,一時の確率的優位性があることを示している.
尤度比優位性
全ての$z\in[0,\omega]$に対して, \begin{equation} \frac{f(x)}{g(x)}\le\frac{f(y)}{g(y)} \end{equation} が成り立つとき,つまり,$f/g$が広義短調増加であるとき,尤度比について$F$は$G$に対して優位であるという. この時,確率密度函数は1度だけ交差する.
全ての$x<y$に対して,尤度比優位性があるとき,
\begin{equation}
\frac{f(y)}{f(x)}\ge\frac{g(y)}{g(x)} \\
\iff\int_x^\omega\frac{f(y)}{f(x)}dy\ge\int_x^\omega\frac{g(y)}{g(x)}dy \\
\iff\frac{1-F(x)}{f(x)}\ge\frac{1-G(x)}{g(x)} \\
\iff\lambda_F(x)\le\lambda_G(x)
\end{equation}
である.
尤度比優位性があるときhazard rate優位性がある.
同様に
\begin{equation}
\frac{f(x)}{f(y)}\le\frac{g(x)}{g(y)}\\
\iff\int_0^y\frac{f(x)}{f(y)}dx\le\int_0^y\frac{g(x)}{g(y)}\\
\iff\frac{F(y)}{f(y)}\le\frac{G(y)}{g(y)}\\
\iff\sigma_F(y)\ge\sigma_G(y)
\end{equation}
である.
尤度比優位性があるときreverse hazard rate優位性がある.
既に示したようにhazerd rate優位性があることとreverse hazard rate優位性があることは,一次の確率的優位性があることを示している.
mean-preserving spreads
5番目の確率順序は平均が同じ分布を比較するときに便利である. $X$は確率分布$F$に従う確率変数であるとする. $Z$は全ての$x$に対して$E[Z|X=x]$であるような$X=x$での条件月確率分布$H(\cdot|X=x)$に従う確率変数であるとする. $Y=X+Z$ははじめに確率分布$F$から引いた$X$と次にその実現値$X=x$に対して条件付き分布$H(\cdot|X=x)$から引いた$Z$を足した確率変数であるとする. $G$を$Y$の確率分布であるとする. この時,$G$は$F$のmean-preserving spreadであるという.
名前の通り,確率変数$X$と$Y$は同じ平均を持っている.$E[X]=E[Y]$. ノイズを加えているので,$Y$は$X$より広がっている.
凹関数$U:[0,\omega]\rightarrow\mathbb{R}$があるとする.
この時,
\begin{equation}
E_Y[U(y)]=E_X[E_Z[U(X+Z)|X=X]]\\
\le E_X[U(E_Z[X+Z|X=x])]\\
=E_X[U(X)]
\end{equation}
が期待値の線形性と凹関数であることから成り立つ.
このことは同じ平均を持つ分布間の順序を定義するために使うことができる. 二つの分布$F$と$G$が同じ平均を持つとする. 全ての凹関数$U:[0,\omega]\rightarrow\mathbb{R}$にたして, \begin{equation} \int_0^\omega U(x)f(x)dx\ge\int_0^\omega U(y)g(y)dy \end{equation} が成り立つ時,$F$は$G$nに対して二次の確率的優位性があるという.
$G$が$F$に対してmean-preserving spreadである時,$F$は$G$に対して二次の確率的優位性があるという. 逆も然りである. このことから2つは同値である.
二次の確率的優勢性は全ての$x$に対して \begin{equation} \int_0^x G(y)dy\ge\int_0^xF(x)dx \end{equation} であることと同値である.イコールは$x=\omega$の時に成り立つ.